髪様さよなら

もともとオデコは広いほうだった。

中学生のときから
親に言われるたびに

「あんたの子だよ」って言葉を
何度も飲み込んだ。

ニューモ育毛剤のレビュー!

一方で髪の毛同士も
ご近所付き合いが悪く

それぞれ距離を取る
スタイルを取っていたから

やたら毛が薄く
見えてしまう傾向にあった。

運動部に所属し
ボウズだったから
まだ目立たなかったものの

髪が少し伸びる度に
「なんか毛薄くない?」って
周りから言われるのがイヤだった。

いじめならまだいい。

本当に心配してくれる
友達の声の方がよっぽど
現実を突きつけられるようで
悲しかった。

そんな僕も今日で
33才を迎える。

結婚して妻もいる。

そんな妻からも
数ヵ月前から
「毛薄くない?」って
言われるようになった。

「もともとなんだよ」

誰がこんな言葉を
信じるだろうか。

彼女の目に写るのは
寂しい大地に細い根を張る
雑草くらいのものだろう。

毛量少なく
直径も細いとあっては

誰でも
「あ、こいつハゲるな」

こう思うだろう。

「ちがう!体質なんだ!」

心の叫びは届かない。

さて、動物は季節が変わると
体毛が生え変わるという。

人間に身近な犬や猫を
例にあげても確かに
毛が抜ける時期はある。

2020年12月。

秋はあっという間に
過ぎ去って冬が訪れた。

今日もひとり寂しく
発泡酒を握るその手に
か細い髪の毛が
乗っているではないか。

これは自分の毛だ。

いや、別に室内なら
自分か他人の髪の毛が
手についたり服についたり
することなんてよくある。

僕は別に気にしなかった。

晩酌も終盤。

スマホを片手に
あろうことか大事な
発泡酒をこぼしてしまう。

ティッシュで
拭こうとしたときのこと。

「…!」

毛が…!!

これは誰のものでもない。

この世にただひとり。
僕の髪の毛だ。

たぶん警察の鑑定に
出しても間違いなく
僕のDNAが検出されるだろう。

30前半。

別におかしいことではない。

しかし、これまで
生まれつきのヘアースタイル
だと思っていたのに
そのアイデンティティは

他人が指摘するとおり
加齢によるハゲと化して
しまったのだ。

ハゲ。

文字にすれば
これほど悲しいこともない。

ゲリ、ゴキブリに並ぶ
パワーワード。

これからは妻と相談して

ひとり、またひとりと
旅立っていく髪の毛を
食い止める方法を模索
していきたい。

きっと体質もあるし
季節だから大丈夫。

だよね?